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東京地方裁判所 昭和47年(刑わ)3053号 決定 1975年1月29日

主文

本件請求を却下する。

理由

被告人谷津の当公判廷における供述および本件記録によれば、本件供述調書は、被告人に対して兇器準備集合罪・公務執行妨害罪により公訴が提起された日である昭和四七年六月三日以降のいまだ弁護人が選任されていない段階での取調によつて作成されたものであることが認められる。ところで、現行刑訴法には、被告人を当該起訴事実について取り調べることを禁止した明文はないが、そのことをもつてただちに、いわゆる起訴後の取調べが起訴前の被疑者の取調と同じ要件の下で許容されると解することはできない。けだし現行刑訴法は、当事者主義を基調としているところ、公訴の提起によつて、被告人は訴訟の当事者としての主体的な地位にたつのであつて、その変化に伴い、ことがらの性質上、刑訴法一九七条一項本文の認める捜査官の任意捜査の方法時期等も一定の制約をうけることは避けられないというべきである。

そこで、その方法について検討すると、被告人は、公判廷においては、当事者として弁護人の立会のもとで供述する権利があり、かつこの権利は当事者としての地位にとつて基本的なものというべく(憲法三七条三項参照)、したがつて、被告人である以上は被疑者段階とは異なり、右権利の保障は原則として公判廷外での捜査官による任意捜査についても及ぶものと解するのが相当である。すなわち、被告人が任意に取調に応ずる場合でも、本件のように、任意的弁護事件でいまだ弁護人が選任されていない場合は、捜査官が被告人に対して弁護人選任権を告知したのみでは十分でなく、さらに、弁護人の選任を希望するならば弁護人の選任がなされた後その立会の下で取調を受ける権利があることをも告知する必要があり、そのうえで被告人が弁護人の立会は必要でない旨を明示して取調に応じた場合等の特別の事情のない限り、捜査官が弁護人を立ち会わせることなく当該被告事件について取調をすることは、訴訟の当事者としての被告人の本質的権利である、弁護人の弁護を受ける権利を奪うことになり、被告人に対する任意捜査の方法として許されないものというべきである。

したがつて、捜査官にとつては本件事案の性質・態様に照らし被告人の供述調書を作成する必要性が全くなかつたとはいえないにしても、本件供述調書の作成に際して、弁護人の立会がなかつたのはもちろんのこと、被告人が取調に際して弁護人の立会は必要でない旨明示的に表示したこと等前記特別の事情の存在を認めるに足る証拠もないから、結局本件供述調書は違法な取調によつて作成された疑いが強く、公判において証拠とすることに同意されていないことにも照らすと、証拠能力に疑問があり採用することができないので、本件請求を却下することとする。

(鬼塚賢太郎 小出錞一 和田朝治)

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